原発性アルドステロン症とは、副腎皮質に血圧を上げるホルモンの一つであるアルドステロンを多く分泌する腺腫ができるか、分泌細胞がたくさん作られる(=過形成)ためにおこる高血圧症です。
従来きわめて稀な二次性高血圧症の原因疾患と考えられてきましたが、1994年のGordonらの報告以来、高血圧症全体の4~13%にもおよぶこと、低カリウム血症などの典型的な症状を示す症例が少ないこと、一般的な画像診断では検出不可能な微小な腺腫の頻度が高いこと、3分の2に高血圧の家族歴があり、初診時の年齢も40~50歳台に集中していることなどが明らかとなり、きわめて一般的な高血圧症の中に潜んでいることがわかってきました(表1、 2)。
さらに、本邦の原発性アルドステロン症のうち70%を占めるアルドステロン産生腺腫(APA)は、腺腫の存在する片側副腎摘除で治癒が期待できる疾患であるにもかかわらず、その大多数が診断されないまま本態性高血圧として生涯にわたって降圧薬による治療を受けている可能性もあります。
治療としては、片側副腎からのアルドステロン過剰分泌を示すAPA、片側副腎過形成(UAH)、片側性多発副腎微小結節(UMN)は片側副腎摘除によって治癒が期待できますが、両側副腎からアルドステロン過剰分泌が認められる特発性アルドステロン症(IHA)、原発性副腎過形成(PAH)、グルココルチコイド奏功性アルドステロン症(GRA)は手術では治癒が期待できないため生涯にわたる薬物治療が必要となります(図2)。
このためアルドステロン過剰分泌が片側副腎由来か、両側副腎由来かを鑑別することは治療法を決定するうえでとても重要です。 現時点で原因疾患の鑑別のためのゴールドスタンダードとなる検査は選択的副腎静脈採血で、このためには短期間の検査入院が必要になります。
片側副腎摘除を行なったAPA術後の治癒率は50~80%、UMNは100%と報告されています。
腺腫例では早期に発見して摘出すれば血圧も含めてすべての症状は改善しますが、かなりの年月が経過した人や高血圧の家族歴のある人では、低カリウム血症や代謝性アルカローシスなどは改善しても血圧は正常化しないことがあります。 片側副腎摘除前に抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)で十分な降圧効果が得られれば、術後の降圧も良好といわれています。
カリウム値はスピロノラクトン内服後1週間以内に改善しますが、高血圧改善までには1ヶ月以上かかることが多いです。本剤は腎尿細管レベルでアルドステロンに拮抗するほか、副腎で11-βhydroxylaseや18- hydroxylaseを阻害することでアルドステロン合成も阻害することによって作用を発揮しますが、女性化乳房などの副作用がしばしばみられます。
諸事情のために手術が困難な場合、抗アルドステロン薬やカルシウム拮抗薬など降圧薬の投与で経過をみることもありますが、手術のできる状態となれば可能な限り摘出手術が望まれます。 近年、アルドステロンの心血管系への直接作用が明らかとなってきており、脳卒中や虚血性心疾患、腎障害などの合併の多い予後不良の高血圧であると判明した現在では、長期間の薬物療法を続けていくよりも腺腫摘出によってアルドステロンを正常化できる治療法の方が長期予後の点からも望ましいと考えられています。 両側副腎からのアルドステロン過剰分泌を示す人では抗アルドステロン薬やその他の降圧薬で治療を行ないつつ経過観察します。 GRAはグルココルチコイドの投与でACTHを抑制することで血圧も正常化しますが、副作用の問題もあり抗アルドステロン薬を含めた各種降圧薬で治療を行ないます。
現在、当院の健康管理センターでは、人間ドックを受診して高血圧を指摘された方に同意の上で、金沢大学との協同で血中アルドステロンと血漿レニンを無料で調べさせていただいています。このスクリーニングで原発性アルドステロン症が疑われた方は、当院の内科外来でカプトプリル負荷試験などの精密検査を行なえますので、是非ともお問い合わせ下さい。